無痛分娩について

無痛分娩とは、麻酔を使用することにより分娩時の痛みを和らげる出産方法です。当院は主として『硬膜外麻酔』による無痛分娩を実施しています。麻酔薬は神経に作用し、赤ちゃんとつながる血管内にはほとんど移行しないため、赤ちゃんに直接影響を与える心配はありません。痛みの感じ方、麻酔の効き方にも個人差がありますが、お産の痛みをやわらげる最も有効な方法です。「和通分娩」とも呼ばれています。

当院の無痛分娩の特長

無痛分娩費用

入院費+70,000円

麻酔方法

麻酔方法は“硬膜外鎮痛法”を採用しています。背中から細くて柔らかいチューブを入れて、そこから麻酔薬を注入すると、お腹からおしりにかけての痛みが和らぎます。麻酔注入開始から効果発現までに30分程度の時間を要します。適切な麻酔効果が得られたら妊婦さんに麻酔投与のボタンをお渡しします。PCEA(patient controlled epidural analgesia)といって、痛みを感じたらボタンを押すことによりご自身で麻酔薬を投与する方法です。さらに一定間隔で自動的に麻酔薬が投与されるPIB(programmed intermittent bolus)を併用しています。連続してボタンを押しても過剰投与にはならな
いよう、投与間隔に制限をかけていますので、安心して使用できます。

メリット・デメリット

メリット

無痛分娩の最大のメリットはお産の痛みを和らげることです。下半身の感覚が完全に無くなるわけではありません。赤ちゃんが降りてくる感覚や子宮収縮をある程度感じながらリラックスした状態でお産に臨むことができます。お産の疲労が軽くなるため、産後の体力が温存できたと実感される方が多くいらっしゃいます。お産の経過中に、緊急帝王切開が必要になった場合にも迅速に帝王切開の麻酔に切り替えることができます。

デメリット

無痛分娩では痛みが和らぐとともに、陣痛が弱くなることがあります。このため、無痛分娩を行わない場合と比べると、分娩時間は長くなり、吸引分娩の割合が上昇する可能性があります。無痛分娩を行わない場合と比べて帝王切開となる割合は変わりません。

無痛分娩は医療行為であり、麻酔に伴う偶発症やお産への影響に注意を払う必要があります。

比較的起こる副作用

無痛分娩ではお産の痛みを伝える経路である、背中の脊髄神経近くに痛み止めを投与するため、以下の症状が起こることがあります。

無痛分娩・硬膜外麻酔による偶発症

血圧低下

硬膜外麻酔には痛みを取ると同時に、血管を広げる作用があります。麻酔開始後に気分が悪くなった場合は教えてください。

硬膜穿刺後頭痛

硬膜外麻酔の処置中に硬膜を傷つけてしまった場合、脳脊髄液が針穴から漏れて激しい頭痛が起こることがあります。発生頻度は約0.5%(170~200人に1人)程度で、通常、特別な治療をしなくても1~3週間程度で治ります。産後2日までに生じることが多く、症状は身体を起こすと強くなり、横になると軽快することが特徴です。それでも症状が軽くならない場合は、患者さん自身の血液を硬膜外腔に注入し、血をかさぶたのように固まらせることにより穴をふさぐ「硬膜外血液パッチ」を行うことがあります。

アレルギー

硬膜外麻酔や処置の消毒などで使用する薬が体に合わなくて、蕁麻疹が出たり呼吸困難になったりすることがあります。以前、局所麻酔薬に対してアレルギー反応が起こったことがある場合には、必ず担当医にお伝えください。

馬尾症候群、一過性神経症状

産後に起こる一時的な下肢のしびれ感などの原因のほとんどはお産の体位や赤ちゃんの頭による神経の圧迫が多いといわれています。麻酔に関連するところでは、局所麻酔薬の影響で1~5万人に1人程度で、下半身の知覚障害、運動障害、直腸膀胱障害など(馬尾症候群)を生じることがあります。脚の痛みや知覚異常は、通常、24~72時間以内に回復します(一過性神経症状)が、中には症状が長期間持続する場合もあります。

※ 局所麻酔薬中毒

硬膜外麻酔に使用する局所麻酔薬が偶発的に血管内に投与され、血液内の局所麻酔濃度がかなり上昇してしまうと、局所麻酔薬中毒となることがあります。不整脈や痙攣、意識障害などを生じることがあります。

※ 高位脊髄くも膜下麻酔・全脊髄くも膜下麻酔

硬膜外ではなく、脊髄くも膜下腔に局所麻酔薬が入ってしまうことが稀にあります。麻酔の効果が強く急速に現れたり、血圧が急激に下がったりします。重症では呼吸ができなくなったり意識を失ったりすることもあります。発生した場合には、人工呼吸をはじめとする適切な処置を行います。

※ 硬膜外血腫・硬膜外膿瘍

血液を固める機能や血小板に異常がある場合、背中に針を刺すときやカテーテルを抜くときに、硬膜の外に血腫(血の

かたまり)ができて、神経を圧迫することがあります。10万人から15万人に1人の頻度で起こるといわれています。
硬膜外腫瘍は、カテーテルを介して細菌が硬膜外腔に侵入し、発生する膿のかたまりです。血腫と同様に、神経を圧
迫して感覚や運動を麻痺させることがあります。
できる限り早期に手術をして血液のかたまりや膿を取り除かなければならない場合があります。

母体の気道確保困難

母児の状態の変化によっては帝王切開分娩に移行することがあります。なるべく気管内挿管を伴う全身麻酔を避けて

局所麻酔(脊髄くも膜下麻酔・硬膜外麻酔)を優先していますが、 急変時に人工呼吸管理が必要になることもあり、
気管内挿管を行う場合があります。

硬膜外麻酔のカテーテル切断など

まれにカテーテルが切れて体内に残ることがあります。手術的に遺残カテーテルの摘出を試みる場合があります。

上記のうち、※の症状が起こった場合は、以下の連携施設への搬送となります。

 

  ・九州大学病院

  ・福岡赤十字病院

  ・福岡徳洲会病院

  ・九州医療センター

 

上記合併症を予防するため、麻酔薬は低濃度で使用される傾向があり、当院でも痛みを和らげる効果を残しつつ麻酔薬を低濃度で使用しています。麻酔開始後、麻酔範囲や痛みがどの程度和らいでいるかの指標として麻酔薬がどこまで効いているのかをチェックするコールドテストやNRS(陣痛の痛みを10段階で評価する方法)を定期的に確認を繰り返すことで麻酔薬の過剰投与を予防しています。緊急時に備えて日々、医療スタッフの研鑚やマニュアルの徹底をすることで、より安全に無痛分娩が行えるよう努めています。

無痛分娩までの流れ

入院日の決定

妊婦さんと赤ちゃんの状態を総合的(内診所見)に判断して、ご本人と医師と相談して日取りを決めます。

入院当日(事前準備)

無痛分娩前日に入院していただきます。入院後は診察とモニター検査を行います。必要に応じて、赤ちゃんが産まれやすくするための処置(バルーン)で子宮口を広げます。無痛分娩に向けて直前のオリエンテーションを実施しております。

無痛分娩(当日)

陣痛室・分娩室(LDR)で過ごします

胎児心拍モニターを装着し、誘発分娩(バルーン・陣痛促進剤)を行っていきます。状況によりますが、陣痛が規則的になり、妊婦さんの意見を主体として、医師と助産師が相談したうえでお産が進行するという目処がついてから硬膜外麻酔を開始します。麻酔薬を注入してから効果がでるまで30分程度かかります。

血圧モニター、胎児心拍モニター、麻酔のチェックを定期的に行います。無痛分娩開始後は出産になるまで絶食となります。飲水は可能です。麻酔薬が効いている間は足に力が入りにくくなることがあります。転倒などの危険を防止するために、無痛分娩中の歩行はできません。麻酔の影響で尿意を感じにくい場合がありますので、導尿を行います。麻酔が効いているため、導尿の痛みもありません。

いよいよ分娩

呼吸法の誘導は助産師がリードしていきますので心配いりません。必要時には会陰切開を行います。麻酔が効いているので、会陰切開の痛みもありません。状況によって、吸引分娩となる可能性もあります。出産後は麻酔の注入を中止し、背中のチューブを抜去します。麻酔の効果が消失し、歩行できる状態に戻ったことを確認後にお部屋へ戻ります。

当院無痛分娩の体験談

無痛分娩教室

当院では、無痛分娩を正しく理解していただくため、麻酔専門医による無痛分娩教室を行っています。

無痛分娩希望の方、無痛分娩にするか迷っている方にもご参加いただけます。(ご家族も参加可)

当院で無痛分娩にて出産される方は、妊娠34週までに必ずご参加ください。

参加ご希望の方は、受付カウンターのタッチパネルまたはWebでご予約ください。


日時 毎月最終火曜日 14:30~15:00
場所 筑紫クリニック4階マザーホール

【無痛分娩個別相談のご案内】

無痛分娩教室の受講が困難な場合や個別相談を希望する場合は、ご予約を受け付けております。

時間調整はできますのでご相談ください。